「自分は大丈夫」と思う人ほど危ない――人の思い込みが、いちばん難しい

田代

前編では、ご家族の詐欺被害体験が今のセキュリティ事業の原点になったというお話を伺いました。

そこから長くこの領域に向き合ってこられて、改めて、今の事業、詐欺対策の難しさはどこにあると感じていますか。

明田氏

結局のところ、最も大きいのは、人の気持ちの部分だと思っています。多くの人が「自分は大丈夫」と考えている。その前提に、この事業の難しさがすべて詰まっている感じます。
「自分はだまされない」と思ってる人ほど、実際にはだまされてしまうことがある。しかも、狙われやすい人ほど、その傾向が強いんですよ。

田代

印象的だったエピソードなどはありますか。

明田氏

以前、警察の方と一緒に、電話に取り付ける迷惑電話防止機器を駅前で無料配布していたことがありました。
無料で配っているにもかかわらず、「自分はそんなものにだまされるわけない」と怒る方もいらっしゃって。むしろ、そうした反応をされる方の方がリスクが高いのではないかと感じました。
だからこそ難しいんです。本人が必要だと思っていないものを、どう届けるのか。一度「これは本物だ」と思い込んでしまうと、外からの声が届けにくくなりますから。

田代

御社としては、そこにどう向き合おうとしているのでしょうか。

明田氏

だから、私たちは、自分が意識しなくてもサービスが機能している状態を目指しているんです。
たとえば、携帯を購入した時点で、すでに自然に組み込まれているような形ですよね。
「自分は大丈夫」と思っている時点では届きにくいのであれば、最初からそこにあるべきだ、という考え方です。

田代

通信キャリアとの取り組みというのも、そういった考えのもとで実施しているわけですか。

明田氏

そうですね。国内の携帯電話契約件数(移動系通信)は2億件を超えていますが、まだ十分にカバーできているとは言えません。
そこをどう埋めていくかが、今後の大きな課題です。

警察庁推奨のアプリをNTTタウンページさんと進められたのも、同じ思想の延長にあります。そうした取り組み通じて、新しいアプローチで利用者を広げていくことに、今後も力を入れていきたいと考えています。

フェイクがあふれる時代に、何を信じるのか

田代

一方で、今は電話やSMSだけではなく、SNSや生成AIも絡んでくる時代になりました。被害の構造そのものも、かなり変わってきていますよね。

明田氏

変わってきていますね。
私もX(旧Twitter)を見ていて、これが本物の映像なのか、偽物なのか、まったく判別がつかないと感じることがあります。本当に分からないんです。
この先、どのような世界になっていくのだろうと不安にもなりますし、最近は、見ること自体に少し抵抗を感じるようにもなってきました。

実は、最近Xの閲覧時間に1時間の制限をかけたんです。嫌なニュースも多いですし、生成された映像のようなものも増えてきているので。気づくとあっという間に1時間が過ぎていて「普段こんなに見ていたのか」と驚きましたね。

何がフェイクで、何が本物か、本当にわからない時代になってきている。この点は、被害という意味でも非常に大きな問題だと思います。
技術的にも、短い音声データから本人そっくりの音声を生成できる段階にすでに来ていますし、オンライン上で本人らしく会話するといったことも、現実のものになりつつあります。そうなると、今以上にだまされてしまう人は増えていくいのではいかと感じます。

田代

これまでのように、「怪しい電話に気を付けましょう」というだけでは追いつかなくなっているということですね。

明田氏

人が自分の力で見抜く、という前提そのものが、少しずつ揺らいできているように感じます。