まず変えたかったのは、“上を見ながら動く組織”だった
田代
社長に就任して、「自分が代表になったからには、ここを変えていきたい」という点についてお聞かせいただけますか。
平岡氏
そうですね。
よく創業社長と二代目の違いとして、創業社長は「俺が俺が」という性格な一方、二代目は「組織化が得意」みたいな言われ方をしますよね。
自分が組織化が上手かどうかは分からないですが、社長就任後、まずは各組織が自立して動けるように構造を変えました。
いちいち社長決裁を待っていたら、人数が増えた時に絶対に回らなくなる。だから、意思決定のスピードを上げるため、自分たちで進める感覚を持てる組織にしたかったんです。
田代
組織図や態勢などオペレーションを変えるというより、組織のマインドを変えるイメージでしょうか。

平岡氏
そうですね。
組織図やオペレーション自体はそこまで大きく変えていないです。
どちらかというと、「まずやってみる」「ダメなら直す」という回し方をしてほしい、と伝えました。
上司の顔色を見て止まるよりも、動きながら修正すると、スピード感はまるで違います。
この感覚はかなり意識しました。
田代
足元で社員数が増えていることなどが意識を変える動機となったのでしょうか。
平岡氏
そうですね。
「このまま人数が増えたらパンクする」という現実的な危機感があったのが大きな要因ですね。
売上高50億円は決してゴールではない、その先を考えるか
田代
サイエンスアーツを語るうえで、「2030年売上高50億円」という目標の存在が大きいと思います。
会長は以前から「この計画はかなり保守的」といった話し方をされていましたね。平岡さんご自身はどう見ていますか。
平岡氏
50億円という数字は、当然達成すべき目標だと思っています。
ただ、そのためには既存事業の延長線だけではなく、新しいサービスや製品などをきちんと作っていかないといけない。
この観点は、社長に就任する前から、自分でも強く思っていました。
田代
外部から今の成長の勢いを見ると、売上高50億円は近い将来の通過点に過ぎないようにも見えてしまいますが、いかがでしょうか。
平岡氏
ありがたいことですし、自分も売上高50億円が最終地点だとは思っていません。
まずは達成できる数字をしっかり積み上げることが大事ですね。ただ決してそこで終わってはいけない。
「将来を見据えて、何の事業に取り組むか」が重要だと思っています。
まずは国内市場、将来はその先のグローバル展開を見据えていますね。
Buddycomを世界へ——“まず行くこと”が先にある
田代
“その先”というのは、やはり海外、とりわけアメリカ市場だと思います。
御社の決算資料に記載がある、巨大IP無線の市場規模は特に印象的でした。
平岡氏
そうですね。
IP無線のグローバル市場は2023年時点で約1,200億円で、今後も大きな成長が見込まれています。
なのでグローバル市場には大変期待しています。売上高構成比も、将来的には日本3割、グローバル7割くらいまで持っていきたいと考えています。
2024年にJVCケンウッドさんと資本業務提携契約を結んだ背景は、こうした市場を強く意識した結果です。
日本のIT企業として、海外展開にちゃんと成功した会社として見られるようになりたいという強い思いはあります。

同社の主力サービスBuddycom
田代
かなりスケールの大きな構想ですね。
平岡氏
もちろん一筋縄では行かないと思っています。
正直、今はまだ「どうやるか」もきれいに話せる段階ではないです。
まずは行く。市場の雰囲気を知る。何も分からないなら、分からないなりに中に入って理解する。その感覚の方が近いですね。
田代
かなり実務的ですね。
平岡氏
実際、文化も全然違いますし、商流も違うので体感するのが一番早いと思っています。
調べると、米国では法律や規制も州ごとに違っていて、まさに「合衆国」であることを実感しました。
REP(販売代理店:米国市場進出の主流モデルで、大手との直販を除き効率的に販売網を広げる手法)といった独特の仕組みもあって、日本の感覚のままでは全然通用しない。
だからこそ、まず中を知ることが必要だと思っています。
田代
難しい一方、市場規模の大きさを考えると、期待はどうしても高まりますね。
平岡氏
そうですね。
日本でもまだ開拓余地はかなりありますし、それがアメリカになると単純に市場が大きい。
だから夢のある話ではあるんですけど、そこを夢だけで終わらせないようにしたい。どう勝ち筋をつくるか、そこは真面目に考えています。
AIは脅威ではなく、“現場にベテランを置く”ための手段
田代
今の経営者に聞かないわけにはいかないテーマがAIです。平岡氏ご自身は、AIをどう捉えていますか。
平岡氏
私は脅威ではなく、圧倒的にチャンスだと捉えています。
成長するための種ですね。もちろん活用しないといけない。ただ、うちにとってAIは、サービスそのものの代替ではないと思っています。
田代
どのような位置づけになるのでしょうか。
平岡氏
Buddycomは、会話のためのプラットフォームです。その価値を上げるために、LLMや解析、実行ができるAIが乗ってくる。だから、AIが主役というより、プラットフォームの価値を高めるものとしてAIがある、という感覚です。
田代
AIについてはかなり整理が進んでいますね。
平岡氏
たとえば、うちの利用者の多くは現場で働いているフロントラインワーカーです。
現場では、その瞬間に起きている問題に対応することが仕事の本質だったりする。
溜まった音声データを後から解析するだけじゃなくて、今起きていることに対して、すぐに対応することに価値がある、そういった支援をできるのがAIだと思っています。
田代
具体的には、どういったイメージでしょうか。
平岡氏
航空会社の現場の会話の中で「部品がありません」という会話があったとします。
これって次の飛行機のデリバリーに影響するかもしれない。だったら、その時点でアラートを出して、誰かが先にサポートできるかもしれない。そういう、リアルタイムで現場を支援する、これが当社の思い描くAIの活用ですね。
田代
かなりBuddycomらしいAIのあり方ですね。
平岡氏
そうだと思います。
我々は、現場の人の仕事を奪いたいわけではないんです。むしろ、ノウハウが足りない人でも現場でちゃんと働けるようにしたい。
どの現場にもベテランが一人ついているような状態をAIでつくれたら、サービスの質がより向上しますから。
