キャッシュレスは普及したが、まだ道半ば

田代

ここからは、現在の決済市場について聞かせてください。
日本でもキャッシュレス決済がかなり普及しました。今の市場をどう見ていますか。

李氏

都市部や大きなチェーン店では、本当に便利になったと思います。
コード決済も使えます。クレジットカードも使えます。交通系ICもあります。
消費者から見ると、かなり選択肢が増えました。10年前と比べれば、環境はまったく違います。

ただ、日本全体で見ると、まだ完成したとは思っていません。地方へ行くと現金しか使えない飲食店もありますし、小規模な店舗ではキャッシュレスを導入していないところもまだ多い。

田代

理由は手数料でしょうか。

李氏

そうですね、手数料は大きな理由の一つです。
例えば売上が100万円なら、3%の決済手数料は3万円です。
利益率の低い飲食店にとって、この3万円は大きい。「便利なのは分かるけれど、そこまで手数料を払うなら現金でいい」という判断になることがあります。

田代

決済の仕組みそのものにもコストがかかるということですね。

李氏

そうです。
カードネットワークがあり、銀行があり、決済会社がある。それぞれが役割を持っていますから、それぞれにコストが発生します。
今の仕組みをそのまま維持しながら、3%を0.5%にしましょうと言っても簡単ではありません。だから、キャッシュレスをさらに広げるには、仕組みそのものを変える必要があると思っています。

ステーブルコインを「使える場所」を作る

田代

そこでステーブルコインが出てくるわけですね。

李氏

一つの可能性だと思っています。
当社が提供を開始したStablecoin Payでは、決済手数料を0.98%に設定しました。

田代

0.98%という数字には、かなりこだわりがありますか。

李氏

あります。特に「1%を切る」ことには意味があります。
店舗の方と話をしていると、「1%以下なら積極的に導入したい」という声があるんです。3%、4%では難しい。2%でも高い。でも1%以下なら考えられる。このラインはかなり大きいと思っています。

田代

ステーブルコインだからこそ、そこまで下げられる可能性があるということでしょうか。

李氏

そうですね。
ブロックチェーンを使えば、従来の金融インフラとは違う形で資金を動かすことができます。
その結果、中間コストを減らせる可能性があります。
もちろん、実際にサービスを提供するには法制度やシステム、運用など、さまざまなコストがあります。
「ブロックチェーンだからゼロ円」という話ではありません。
ただ、従来とは違うコスト構造を作る可能性はあると思っています。

田代

世界では、すでにステーブルコインがかなり使われていますね。

李氏

USDTやUSDCは非常に大きな規模になっています。
世界を見ると、ステーブルコインはすでに「実験」だけの段階ではありません。
実際に送金や決済などで利用されています。日本でも円建てステーブルコインが出てきています。
ただ、日本ではまだ日常生活で普通に使うところまでは来ていません。

田代

どのステーブルコインが広がるかは、どう見ていますか。

李氏

私は、どのコインが最終的に勝つかを予想することは、それほど重要ではないと思っています。
USDTなのか、USDCなのか、円建てなのか。それは利用者や市場が決めることです。

大事なのは、店舗が一つひとつのステーブルコインに個別対応しなくても済むようにすることです。
利用者が持っているものを、普通のお店で使える。そこを作ることが重要だと思っています。

PayPayに学ぶ「使う理由」の作り方

田代

一般の人がステーブルコインを普通に使うには、何が必要でしょうか。

李氏

一番大事なのはユースケースです。技術が優れているだけでは、一般の人は使いません。
「なぜ使うのか」
「使うと何が良いのか」
そこが明確でなければいけません。

田代

例えば、どのような形でしょうか。

李氏

PayPayは非常に分かりやすい例だと思います。
サービス開始当初、大きなキャッシュバックキャンペーンをしましたよね。多くの人にとって、「コード決済が優れた技術だから使う」という話ではなかった。
「使えば得をする」
「どうせ支払うなら得なPayPayにしよう」
こうした動機付けがあったから使ったんです。利用者は一度使ってみると、「これは便利だ」ということが分かる。そこからは日常的に使うようになりますね。

ステーブルコインも同じです。
速い。
安い。
海外でも使いやすい。
そういったメリットを、一般の人が実際に感じる場面を作らなければいけません。
「ブロックチェーンを使っています」
「Web3です」
と言われても、一般の利用者には関係ありません。強い動機付けが必要だと私は考えています。

田代

今進めているStarPay-Xは、どのような構想なのでしょうか。

李氏

簡単に言えば、Web2とWeb3をつなぐゲートウェイです。
Web3の世界には、ステーブルコイン、ウォレット、ブロックチェーン、DeFiなど、いろいろなサービスがあります。
非常に面白い技術や金融サービスも多いです。

ただ、その多くはまだWeb3の中だけで完結しています。一般の人が普段使うお店や、既存の金融サービスとは十分につながっていません。そこをつなぎたいんです。

田代

利用者は、裏側の仕組みを知らなくてもいい。

李氏

知らなくていいと思います。
Solanaなのか、Polygonなのか。どのブロックチェーンを使っているのか。一般の人が全部理解してから使う必要はありません。
インターネットを使う時に、普通の人は通信プロトコルを考えませんよね。
それと同じです。
どのウォレットを使っていても、どのチェーンを使っていても、普通のお店で自然に使える。そういう状態を作りたいんです。

決済会社の宿命とは

田代

振り返ると、創業時の国際SMSともどこか共通しているように思えますね。

李氏

基本は同じだと思っています。
創業時は、海外の通信会社と日本をつなぎました。
次はQRコード決済です。
WeChat Pay、Alipay、日本のさまざまなコード決済。
店舗が全部の会社と個別につながるのは大変ですから、そこをStarPayでまとめました。そして今度はWeb3です。

田代

対象は変わっても、役割は変わらない。

李氏

そうですね。
Web3の金融サービスと普通の店舗。
ブロックチェーンと既存の金融。
新しいものと、すでに世の中にあるもの。
それをつないで、一般の利用者が簡単に使えるようにする。
技術は変わっていますが、ネットスターズがやってきたことは、ずっと「つなぐ」ことなんです。

田代

決済の先に、ネットスターズをどのような会社にしていきたいですか。

李氏

私は、決済会社の次の宿命は金融会社になることだと思っています。
決済会社は毎日、お金が動く場所にいます。
お客様から信頼していただき、決済を任せてもらえるようになると、その上にさまざまな金融サービスを作ることができます。

田代

「金融会社になる」とは、具体的にどういうことでしょうか。

李氏

例えば、中小企業の資金繰りです。
当社は店舗の決済を扱っています。
そうすると、毎日の売上データを見ることができます。
昨日はいくら売れたのか。
今月は売上が増えているのか、減っているのか。
継続的にどれくらいの売上があるのか。
そういった情報が分かります。

一方で、お店では今日売上が立っていても、そのお金が実際に銀行口座へ入るのは後です。
その間にも仕入れ代金を払う必要があります。
社員の給料もあります。
家賃もあります。
売上はあるのに、手元に現金が足りないことはあります。

田代

そこを決済会社だからこそ支援できる。

李氏

そうです。
売上が発生していることは私たちには分かります。
それなら入金を早めることもできます。
その売上データをもとに、必要な資金を提供するようなサービスも考えられます。
決済からデータが生まれる。
そのデータを信用につなげる。
信用を資金につなげる。
そうすれば、企業のお金をもっとスムーズに動かすことができます。
当社が掲げている「お金の流れを、もっと円(まる)く」という考え方にもつながります。