双方向であることは、ずっと変えていない

田代
Kabu Berryを始めた頃から今まで、ここは変えていないという一本筋のようなものはありますか。

yama氏
双方向であることは、めちゃくちゃ大切にしています。
個人投資家と企業のIR担当者との間でもそうですし、個人投資家同士でもそうです。
一方的に、株式投資が上手い人やマーケットを知り尽くしている人がセミナーをする形も、もちろんありだと思います。それはそれで価値があります。ただ、私はそれ以上に、自らが話すこと、自らの悩みや考えを出すことが大切だと思っているんです。

田代
実際、Kabu Berryは大きなイベントに比べて、参加者同士がつながりやすい印象があります。

yama氏
そこはあると思います。
私はお酒が飲めませんが、今でもなるべく二次会をやっています。それは、人とつながることを大切にしているからです。
株でお金を増やすことは、もちろん良いことです。でも、人とつながることも同じぐらい、あるいはそれ以上に大切だと思うんです。人生を豊かにするという意味では、そちらの方が大事かもしれない。
だから、来てよかったと思える場にしたい。ただ、それは参加者の方々に支えられている部分も大きいです。場を荒らすような変な人が来たら終わってしまいますから。

リスクゼロの場は、本当に面白いのか

田代
実際に、困った参加者が来たこともありますか。

yama氏
ゼロではありません。
参加した投資家さんから「投資関連で変な勧誘をされた」という話をいただくこともあります。「勧誘はやめてください」と言っても、する人はいます。
もちろん、ほとんどはないです。ただ、ゼロというのは嘘です。

だから最初に、「こういうことはやめてください」とアナウンスするようにしています。

田代
多くの人を集める以上、自由とリスクのバランスはありますよね。

yama氏
そうなんです。
ルールを作る側の意見も分かります。ただ、私はリスクゼロの場が必ずしも面白いとは思っていません。

田代
確かに、それはイベント運営としては勇気のいる考え方ですね。

yama氏
双方向って、良いこともたくさんありますが、IRイベントではリスクでもあるんです。
例えば、質問者のクオリティが低いことがあるかもしれない。企業が触れてほしくないところを質問される可能性もある。だったら、事前にきれいな形で質問と回答を決めて出した方がいいんじゃないか、という考えも分かります。

田代
国会答弁のように、質問も回答も事前に整えておく形ですね。

yama氏
そうです。それはそれで、全然ありだと思います。
ただ、自分がコンサートに行って思うことがあるんです。
代表曲でドーンと盛り上がるのも、もちろん楽しい。でも、自分しか知らないような、あまりライブでやらないアルバムの謎の1曲で盛り上がった時の方が、感情が一気に上がることがあるんですよ。
それは、予定調和じゃないからだと思うんです。
IRイベントでも、そういうものを大切にしたいと思っています。

ケツメイシの“謎セトリ”とKabu Berryの質疑応答

田代
最近行かれたライブはケツメイシでしたよね。

yama氏
そうです。
私は大学時代からR&Bやヒップホップが大好きだったんです。中学時代には、オリコンランキングの1位から30位までを毎週ワープロでメモしていたぐらいです。
2000年前後の日本語HipHopブームは楽しんで聴いていました。ケツメイシもすごく好きなんです。ケツメイシって、アルバムの中の曲をかなりやるんですよ。しかも、予想しにくい。普通のアーティストならセトリ(※セットリストの略、曲順)が読めることもありますが、ケツメイシは読めないんです。


25周年ツアーだからといって、代表曲だけで固めるわけでもない。直近のアルバム曲を全部やるわけでもない。昔のアルバムの中から謎の曲を4、5曲入れてくる。
本当に“謎セトリ”(※何ら脈絡のない曲順のこと)なんです。
それでも、今でもアリーナツアーを続けている。そこがすごいと思うんです。

田代
それが、yamaさんのIRイベント観にも重なっているわけですね。

yama氏
そうかもしれません。
予定調和ではないから、その場でどんな反応が返ってくるか分からない。もちろんリスクもあります。でも、その分だけ大きな発見が生まれることもあるんです。
Kabu Berryでは、投資家からの質問時間を長めに取っています。双方向の対話を大切にしたいからです。
自分自身、企業に質問を送っても採用されなかった経験があります。運営側の事情も分かります。時間は限られていますし、企業にも答えづらいことがある。
それでも、自分が作る場では、「仕方ない」で終わらせたくない。対話の中から生まれる気づきを大切にしたいんです。

質問力が上がれば、IRの環境はもっと良くなる

田代
今、IRイベントはかなり増えています。そうした環境変化について、脅威に感じることはありますか。

yama氏
脅威という言い方は少し違うかもしれませんが、都心部、特に東京では、この数年で本当に多くの企業や団体がIRイベントを開催するようになりました。
湘南投資勉強会さんや神戸投資勉強会さんも東京で開催されていますし、ログミーさんやIR Roboticsさんなどもあります。個人投資家向けのIRイベントの場は着実に増えており、参加者も増えています。
ただ、一回のIRイベントの参加者が30人から100人になったからといって、質問が3倍になるかというと、絶対にならないんです。

田代
質問できる人の数は、単純には増えないってことですか。

yama氏
そうです。
本来なら、参加者全員に質問してほしいと思っていますが、質問するにはある程度の慣れが必要です。恥ずかしいという気持ちもあるでしょうし、質問の切り口が出てこないこともある。

だからこそ、個人投資家の質問力や、企業を観察する切り口を持つ人がもっと増えたら、IR環境はもっと面白くなると思っています。

田代

やっぱり新しいNISA(少額投資非課税制度)の浸透によって、経験の浅い投資家もIRイベントに参加するようになったからでしょうか。

yama氏
参加者が増えること自体は、とても良いことだと思います。
ただ、うまくなるためには、質問力や企業を見る観察眼などが必要です。質問できる人口がもっと増えた時、IR環境はより良くなるのではないかと思います。
一方で、いきなり全員が上手くなるわけではありません。

投資は誰にでも平等にチャンスがあると言われます。それはその通りだと思います。ただ、平等というのは、別の視点で見ると残酷でもあると思うんです。
投資家全員が努力すれば、全員がトップ投資家になれるわけではありません。けれども、努力によって、上位30%ぐらいに入ることはできると思っています。そこまでいけば、十分に納得できる投資成績になる可能性はありますね。

そのためには、やはり企業をたくさん見ることが大切だと思います。

田代
良い質問をする投資家って、具体的にどのような質問をするのですか。

yama氏
例えば、KPIの変化をなぜそうなったのか掘り下げたり、競合と比較して競争優位性を確認したりする質問ですね。

ブログを書いてから、投資成績が変わった

田代
yamaさん自身も、ブログを書き始めてから投資成績が上がったとおっしゃっていましたよね。

yama氏
そうです。
それまでは、企業をしっかり見ていませんでした。スクリーニングして、PERやPBRを比較して買う。そういった投資を行っていました。
でも、それだけで上手くなるのかというと難しいでしょう。

機関投資家さんは、企業に取材をして、業績や成長戦略などを分析しています。つまり真面目に企業を見ていますよね。そうやって自らの目を磨いている。企業をたくさん見ないことには、目は磨かれないと思うんです。
私の場合は、たまたま二次会で酔っ払いのおじさんに「ブログを書け」と言われたことがきっかけでした。でも、結果として、それが企業を見る目を磨くことにつながりました。

田代
偶然のようで、かなり大きな転機ですね。

yama氏
本当にそうです。
ただ、こういう話も、もっとスマートに言えればいいんですけどね。

「企業を深く知るために、体系的に銘柄研究を始めました」とか言えれば格好良いんですが、実際は酔っ払いのおじさんに怒られただけですから(笑)。
でも、自分は基本的に何かを始める時、そういうことが多いんです。きれいな計画というより、その時の違和感や悔しさを行動に移しているんだと思います。