上場は到達点ではなかった――その後も続いた濃密な経営の日々
田代
前編では創業期のかなり厳しい局面まで伺いました。そこを越えてアイビーシーは上場を果たされるわけですが、やはり2015年の上場は大きな節目でしたか。

加藤氏
もちろん節目ではありました。
初値も大きく伸びましたし、市場から見れば、ひとつ結果を出したと見られる出来事だったと思います。
でも、私の感覚では、上場して全部がきれいに整ったという感じは全然なかったかな。
田代
上場がゴールではなかった、と。
加藤氏
そうですね。
むしろその後の方が濃かったかもしれません。役員体制のこともありましたし、会社としてどう持続させるか、上場企業としてどう成立させ続けるか、そっちの方が重かった。
結果的に、常勤取締役が私1人になって、かなりの部分を支えないといけない時期もありましたし、上場したから楽になる、という話ではなかったです。
田代
創業時とは別種の緊張感があったわけですね。生き残るための緊張感とはまた違う、社会的な責任の重さがあったということでしょうか。
加藤氏
そうです。
創業時は、生き残るための緊張感。上場後は、社会的に成立し続けるための緊張感です。
ただ、創業期に相当いろいろやっていますから、上場後に何か起きても、簡単には動じなくなっていました。「まあ、こういうこともあるよね」という感じで、次を考える方が先でしたね。
市場の王道は見えていた。それでも、同じ道をなぞることは選ばなかった
田代
上場後の経営を考えると、クラウドやインテグレーションのような、よりわかりやすい成長戦略も十分にあり得たのではないかと思うのですが、そのあたりはどのように見ていらしたのでしょうか。
加藤氏
当然それは考えましたね。
AzureやAWSのインテグレーションにもっと寄せて、人を集めて、投資していけば、企業としての見え方はもっと分かりやすかったと思います。
つまり、決して王道が見えていなかったわけではないんですよ。そこは誤解しないでほしいですね。

田代
となりますと、あえて戦略として、そういった事業に全面的には振らなかったということでしょうか。
加藤氏
そうですね。
理由はいくつかありますが、ひとつはやっぱり、過去に人や組織でかなり苦労してきたことですね。人を一気に増やして、そこに振り切ることに対して、無条件に前向きにはなれなかった。
ただ、それだけでもないんです。
田代
というと。
加藤氏
私の性分なんでしょうね。
理屈として、そちらの方がわかりやすいし、注目も集めやすいというのは分かってるんです。
でも、じゃあそれをそのままやることに、自分自身が本当に魅力を感じるか、会社としてさらに大きくなるのか、というと、そこは別なんだよね。
そのまま、なぞることに対してあまり面白さを感じない、新しい事業に挑みたい。たぶん昔からそうなんです。
田代
これは非常に加藤会長らしいですね。王道を知らないわけではない。むしろ理解している。でも、最後は「自分が納得できるかどうか、会社として長期の成長が見込めるか」が勝つ。
加藤氏
そうだと思います。
経営なので、もちろん足元の数字や評価は大事です。ただ、そこだけで全部を決めることは、私にはたぶんできないんです。
ブロックチェーン、IoT、見守り、保険――人がやらないテーマに惹かれてきた理由
田代
その感覚は、御社が手がけてこられた新規事業にもかなり表れていますよね。ブロックチェーン、IoT、見守り、保険・医療……かなり幅広いですよね。
加藤氏
そうですね。
ブロックチェーンを使った取り組みもやりましたし、IoTのセキュリティのプロダクトもあります。見守りサービスもやりましたし、保険とか医療の情報の流れを変えようとしたこともありました。
振り返ると、やっぱり「まだ人がやっていないこと」に行っているんですよね。
田代
しかも、かなり早い段階で手をつけている印象があります。
加藤氏
早かったと思います。
だからこそ、結果的にうまくいかなかったものもあります。市場がまだ来ていなかった、人材が追いつかなかった、いろいろあります。
でも、そういうテーマに惹かれるんですよ。
「今これをやったら、もしかしたら仕組みそのものを変えられるかもしれない」と思うと、やっぱりやりたくなるんです。
田代
収益性や市場評価だけを最短で取りにいくなら、もっと別の選択肢もあったはずです。
加藤氏
ありました。
でも、私はたぶん、その動機付けだけでは動けないんです。
人がみんなやっていることを、自分たちも同じようにやる。それで企業価値がつくとしても、自分の中であまり納得感がない。
それより、ちゃんと意味があると思えるテーマに張りたいし、構想として面白いと思えるものを形にしたい。その感覚はずっとありますね。
田代
ここも、非常に“加藤会長らしさ”が出ていますね。収益を軽視しているわけではない。でも最終的には、「それで自分が本当に面白いと思えるのか」が大きい。
加藤氏
そうですね。
経営者として正しいかどうかは、いろんな見方があると思いますよ。
でも、少なくとも私は、そういう選び方をしてきたし、それがアイビーシーらしさにもなっているんじゃないかと思っています。
