以前、株価はあまり意識しなかった

田代

ここからは、投資家の視点から少し踏み込んで聞かせてください。
土屋社長は、ご自身の会社の株価をどのくらい気にされていますか。

土屋氏

今はすごく気にしています。
昔は、そこまででもなかったですけどね。ここ3年くらいで意識はかなり高くなりましたし、特にこの1年は大きく変わりました。

田代

少し意外です。以前は、業績をしっかり伸ばしていけば、株価は市場が評価するものだという感覚だったのでしょうか。

土屋氏

そういう部分はあったと思います。
もちろん、今でもまず業績を上げることが大前提です。
ただ、上場会社である以上、それだけではいけないと考えるようになりました。

田代

良い業績を出すだけではなく、それを市場に伝えるところまでが経営だと。

土屋氏

その通りです。
会社が何を目指し、どのような成長戦略を考えているのか。それをしっかり市場に伝えて、企業価値や株価にもつなげていかなければいけません。
最近は会社の中でも、株価を気にする人が増えていると思います。
特に現在はTOPIXの見直しもありますから、どうしても気になります(笑)。

株価を上げることだけを目的に経営するわけではありません。
ただ、上場している以上、会社の成長を市場からきちんと評価していただくことは重要です。
業績を伸ばす。それを市場へ伝える。そして企業価値の向上につなげる。今はそこまで含めて考えています。

時価総額1,000億円は超えなければならない「通過点」

田代

株価を強く意識するようになったというお話がありましたが、ダイトロンにとって時価総額1,000億円という水準は一つの目標なのでしょうか。

土屋氏

目標というよりは、通過点だと思っています。

時価総額1,000億円を達成すれば、大きな節目になると思いますが、そこで満足するわけではありません。
そこで「達成したから終わり」と考えてしまえば、会社の成長もそこで止まってしまいます。
ですから、当然通過点でなければいけない。感覚としてはそうですね。

田代

【前編】で「十分な達成感を感じたことがない」というお話がありました。時価総額1,000億円を「通過点」と捉えているところにも、どこか共通するものを感じます。

土屋氏

深くは考えたことありませんが、そうかもしれませんね。
会社としても、まだやるべきことはたくさんあります。今の状態が完成形だとは思っていません。
まずはしっかり収益を上げる。その上で、当社がどのような会社を目指しているのかを市場へ伝えていく。
時価総額1,000億円は、その結果として超えていかなければならない通過点だと考えています。

株主還元と成長投資、どちらも重要

田代

ここ最近のダイトロンを見ると、自社株買いや配当など、株主還元もかなり意識されているように感じます。
一方で、設備や人材、新規事業への投資も必要です。成長投資と株主還元のバランスをどう考えていますか。

土屋氏

基本的には、両方必要だと思っていますが、難しいバランスですね。
まず会社として収益をしっかり上げなければ、株主還元も充実させられません。
その一方で、株主の皆さんに「魅力のある会社だ」と思っていただくことも重要です。

成長投資か株主還元か、どちらか一方を選ぶという考え方ではありません。
還元を充実させることで、現在の株主だけではなく、新しい株主の方にも当社の株を買っていただく。

そして株価が上がり、企業価値も高まっていく。そういう良い循環を作っていきたいですね。とても難しいことは理解していますが(笑)。

田代

最近は個人投資家向けIRにも力を入れています。説明会では成長戦略についてもかなり話されるのでしょうか。

土屋氏

基本的な内容かもしれませんが、当社の成長戦略や今後の投資、取り扱っている製品や事業の強み、それから配当方針などを説明しています。

田代

説明会を重ねる中で、投資家からの見られ方が変わってきた感覚はありますか。

土屋氏

ありますね。
株価の推移もそうですし、何より質問の数が増えています。当社に関心を持っていただける機会が増えているということだと思います。
現在発表している株主還元策がゴールではありません。
もっと充実させるためにも、会社として収益を上げていかなければいけない。そのための戦略も含めて、株主の皆さんへ説明していくことが必要だと考えます。

田代

株主優待についてどのように考えていますか。

土屋氏

今のところ、株主優待を実施する考えはないということをはっきりお伝えしています。
当社はBtoBの会社ですから、株主の皆さんに直接使っていただける商品やサービスを提供しているわけではありません。事業と株主優待を直接つなげるのが難しいという面もあります。
それよりは、配当や株価を上げる努力によって成長することで、株主の皆さんへ還元していきたいと考えています。

田代

成長することで、将来の還元余力そのものを大きくしていく、ということですか。

土屋氏

その通りです。
会社が成長しなければ、還元を継続的に充実させていくこともできません。
株主の皆さんに長く魅力を感じていただける会社にしていくことが、一番重要だと考えています。

データセンターの必要性はより高まる

田代

ここからは、ダイトロンを取り巻く市場環境について聞かせてください。
現在のエレクトロニクス業界を考えると、避けて通れないのがAIです。生成AIを中心に世界で巨額の投資が続く一方、株式市場では「AIバブルではないか」という見方もあります。
実際に需要を見ている立場から、現在の状況をどのように感じていますか。

土屋氏

しばらくは、この流れが続くと思っています。
少なくとも2030年頃までは、現在のような状況が続くのではないでしょうか。

田代

AI関連の需要そのものが、まだ伸びる余地があるとお考えですか。

土屋氏

はい、その考えです。
AIを活用する範囲や領域は、今後もどんどん広がっていくと思います。
技術が進化すれば、それを利用する場面も増えていくでしょう。
それに、需要が拡大するのはAIだけではありません。


自動車では自動運転が進んでいきますし、エンターテインメントも高度化する。通信技術もさらに進化していくでしょう。
そうすると、社会で扱われるデータ量はますます増えていきます。

田代

生成AIへの投資額だけを見て「バブルかどうか」を判断するのは少し違う。

土屋氏

そうです。
AI以外にも、データを生み出し、処理する領域そのものが増えているわけです。
いろいろなところでデジタル化が進み、それによって扱うデータ量も増えていく。この流れは簡単には止まらないと思います。

田代

データ量が増えれば、それを処理するデータセンターも必要になる、ということですね。

土屋氏

はい、データセンターの必要性は、今後さらに高まると思っています。
もちろん、電力をどう確保するのか、どこに設置するのかといった課題はあります。
ただ、そうした課題があるからといって、扱われるデータ量そのものが減っていくとは考えにくい。

「AIブームがいつまで続くか」という短期的な話より、社会全体でエレクトロニクスの活用領域が広がっていることの方が重要だと思っています。
AI、自動運転、エンターテインメント、通信など、さまざまな分野でエレクトロニクスの重要性は高まっています。
エレクトロニクス産業全体として見れば、まだ需要が広がっていく余地があると考えています。

AI時代、ダイトロンは「どこで稼ぐ」のか

田代

その中で、ダイトロンにとって最大のチャンスは何でしょうか。

土屋氏

エレクトロニクス関連商材の需要市場そのものが広がっていることです。
そして、単純に物を販売するだけではなく、提案能力や技術サポート機能に価値を感じてくださるお客様が増えている。
それが日本国内だけではなく、グローバルで増えていることは大きなチャンスだと思っています。

田代

そこは、まさに前編で伺った「技術立社」という考え方につながりますね。

土屋氏

そうなります。
商品があるから売るのではなく、お客様が何を必要としているのかを考え、技術的な部分まで含めて提案する。市場が成長していても、単純な価格競争だけでは意味がありません。
当社だから提供できる価値を高めることが重要だと思っています。

田代

市場そのものの拡大に加えて、提案力や技術サポートを求める顧客が増えている。ダイトロンにとっては、二つの追い風があるわけですね。

土屋氏

当社には商社として培ってきた販売力があります。そこに提案力や技術力を加えて、お客様の課題に応えていく。
そうした当社の強みを、今後は日本だけではなく海外でも生かしていきたいと考えています。

「何を売るか」だけではなく、「どのような価値を加えて売るのか」が問われている。市場の成長を取り込むためにも、当社だから提供できる価値をさらに高めていくことが重要だと思っています。