「愛着対象」は、孤独という社会課題への答え
田代
先ほど、「愛着対象を作る会社」というお話がありました。
ゲーム会社というより、その言葉の方が、御社らしさを表しているように感じます。
杏奈氏
ありがとうございます。
日本が世界に対して、まだ圧倒的な強みを持っている分野の一つがエンターテインメントだと言われています。もちろん私たちはゲームを作っていますが、本当に作りたいものはゲームそのものか、と言われると、それだけではありません。
経営者もそうですし、若い世代の方々もそうですが、衣食住が満たされていても、埋まらない心の穴を感じる瞬間は多いのではないかと思います。
本来は、人と人との関係の中で満たされることが理想かもしれません。

ただ、それが難しいと感じる場面も少なくありません。
だからこそ、私たちが作る作品を通じて誰かに愛着を持っていただいたり、その作品をきっかけに、明日を生きる勇気が湧いたり、あるいは友人ができたり、新しいコミュニティが生まれたりしたら、本当にうれしいと思っています。
今後、先進国では孤独がさらに大きな社会課題になっていくはずです。
私たちは、その課題に真正面から価値を提供したいと思っています。
世界中の方々にとって、本当に愛されるコンテンツを作ることが目標です。
クリエイターが届けるのは、作品ではなく「自己開示」
田代
作品そのものが、人と人をつなぐ役割を果たしているのですね。
杏奈氏
そうですね。
本来、人と深く分かり合うためには、お互いが「私はこう思っています」と自己開示しながら関係を築いていくものだと思います。
でも、それが苦手な人もいます。クリエイターにも、そのような方は少なくありません。
その代わり、ときに自分自身でも言語化していないような内心の欠片を作品にそっと載せて、表現することもあります。意図してではなく、結果として。
想いを作品として世の中へ届け、その作品に共感したお客様と、言葉を交わさなくても深い部分でつながっていく。私は、その営み自体が本当に尊いものだと思っています。
田代
【前編】でも、「第三者への自己開示は苦手だった」とおっしゃっていました。
だからこそ、クリエイターへの尊敬につながっているのでしょうか。
杏奈氏
そうですね。
私は双子という特殊な環境で育ったこともあり、自分を他人へ説明したり、深く自己開示したりする経験が、あまりありませんでした。
その一方で、何かを生み出すということは、高い技術や能力が必要なのは大前提として、心の柔らかい部分、奥深くに流れる水流を地表まで吸い上げ、それに光を当てることになります。
私には簡単にできないことを、クリエイターの皆さんは自然にやっている。だから、本当に尊敬しています。
もちろん、良い作品を作りたいという気持ちもありますし、会社として利益を出していき、成長させたいです。
でも、それ以上に、自分ができなかった表現をしてくださる方々だという感覚があります。
だから、クリエイターという存在を、とても大切にしています。
田代
どこか共通した空気感があるように感じますね。
杏奈氏
そうですね。
自分の内心がわからない。
人間関係に疲れてしまう。
大勢の輪に入ることが苦手。
そう感じるときでも、愛着対象を思い出せば、自分らしい自分に戻れることがある。あるいは、作品を通じて誰かとつながることができるかもしれない。
クリエイターも、そして私たちも、その作品を中心に、心のどこかで、お客様とつながることができたら。
それが、私たちの事業なのだと思っています。

瑞木氏
本当は、休みの日にはみんなで集まってバーベキューをして、みたいに、人と人が直接つながることができたら、話が一番早いかもしれません。
でも、人とのつながり方って色々な方法があると思うんです。
作品や仕事を通じて人とつながる。
私たちは、そんな場所を提供することができれば、とても幸せです。
田代
ユーザーの皆さんの声は、どのように受け止めていますか。
杏奈氏
お客様からいただく応援のお声にはいつも励まされています。
また、アルバイトやインターンとして学生の方も多く在籍しているので、「何を面白いと感じているのか」「それはなぜか」といったことを日々、直接聞いています。
お客様が何を感じ、何を求めているのか。ユーザーファーストを掲げる当社にとっては、お客様の声が最も重要です。
「続けること」に価値がある
田代
もし今の仕事をしていなかったら、どのような人生を歩んでいたと思いますか。
杏奈氏
もともと、新聞社に入った理由は、テキストで社会や日常に光を当てられることに憧れていたからでした。
ですので、そのまま新聞社にいたら、やりがいを持って楽しく働けていたかもしれません。でも、振り返ってみると、結局は辞めて起業していた気がします。
今考えても、この生き方が自分には一番合っています。
「もっとこうした方がいいのではないか」と考え、形にしていくことにやりがいを感じるタイプなので、どこで働いていたとしても、最終的には、自分で会社を作っていたのではないでしょうか。
田代
瑞木さんはいかがですか。
瑞木氏
私も、この会社以外はあまり考えられません。
会社を売却して、投資家になったり、インフルエンサーになったりする方も多くいらっしゃいます。
もちろん、それぞれ素晴らしい生き方です。
ただ、私自身は、その選択をしたいとは思いません。
田代
その違いは、どこにあるのでしょうか。
瑞木氏
会社を売却すると、自分が実現したいことを、最終的には他人へ委ねることになります。
もちろん、事業を引き継いでくださる方を信頼して売却されるケースもあります。

ただ、私には、自分が本当にやりたいことを、自分以外の誰かへ託すという発想がありません。
夢があるのであれば、自分で責任を負いながら実現したい。
責任を持たない立場でできることには、限界があると思っています。
だから、この会社を続けること以外は、あまり想像できません。
田代
そのお話を聞いていると、「会社を大きくすること」と同様に、「会社を続けること」自体に価値を感じているように思えます。
杏奈氏
そうですね。
私は「続けること」が、とても大切だと思っています。
最近は女性向けゲーム市場から撤退する会社も少なくありません。
大企業の一事業として運営していると、担当者が替わったり、採算だけで判断されたりして、作品が終わってしまうことがあるのかもしれません。
もちろん企業として利益は重要です。
でも、お客様から見ると、その作品は人生の一部になっています。
その世界が突然なくなってしまうことは、とても大きな出来事です。だからこそ、私たちは続けたい。運営中のゲームだけではなく、残念ながらサービス終了することになったゲームについても、グッズやイベントなどを通じて、コンテンツの世界を残していくことを大切にしています。
作品を愛してくださる方がいる限り、できるだけ長く届け続けたいと思っていますし、実際に事業経営としても長期的には、合理的な判断になると信じています。
