暗号資産交換所Zaifと向き合った日々

田代
社長として、一番厳しかったのは暗号資産交換所Zaifが加わった時期でしょうか。

鈴木氏
そうですね。やはりZaifの代表取締役として携わった時期ですね。
暗号資産交換業という、当時まだ世の中に先行事例も少なく、業界としてもノウハウが十分に蓄積されていない事業にかかわっていく。成長戦略としては大きな意義があった一方で、実際の運営は非常に難しかったです。

田代
当時の緊張感は今も覚えています。

鈴木氏
そうですね。
赤字が続くこと自体が重かったですね。年間の赤字額を一日に単純換算すると数百万円でした。つまり一晩で数百万円が消えるような状況でした。
そして、何よりもきつかったのは、暗号資産交換所のシステムは24時間、365日稼働している。つまり、事業者側の休みはないんです。

田代
「24・365(にーよん・さんろくごー)」ですね(笑)。

鈴木氏
それです。実際、休日はほぼありませんでした。
様々な通知が早朝にも深夜にも来るし、暗号資産の出金作業など土日も平日同様、オペレーションがある。セキュリティ管理等は誰でもできる仕事ではないので、権限を持つ人間が常に気を張っていなければならない状況でした。
私だけではなく、当時のZaifの取締役は全員、似たような状態だったと思いますね。

取引先に理解されない時期をどう耐えたのか

田代
しかも当時は、暗号資産に対する世の中の見方が今よりずっと厳しかったですよね。

鈴木氏
かなり厳しかったですね。
既存のお客様、特に金融機関のお客様からは「なぜ、仮想通貨(当時の名称は「暗号資産」ではなくて「仮想通貨」)なんて怪しい事業をやっているんですか」、「これまで信用してお付き合いしてきたのに、不安定な事業になぜ手を出すのか」と。

田代
その時は、どのように説明されたんですか。

鈴木氏
直接足を運んで一つ一つ説明するしかないですよね。
「ご心配はもっともです」「絶対にご迷惑をかけないようにやります」と。
「法人も分けますし、体制も分けて、私が両方の責任を持つ」。
このようにお伝えして、なんとか信頼をつないでいった状況でした。

田代
今だから話せるご苦労ですね。

鈴木氏
そうですね。
でも、暗号資産に関する法整備が進んできた今になると「あの時、鈴木さんが言っていたことがようやく分かったよ」と言っていただけることも増えてきました。かなり時間はかかりましたけど、ようやくご理解いただけたと感じます。

「苦労」は「経験」として組織に残る

田代
結果として、あの時の挑戦は、組織に何を残したと思われますか。

鈴木氏
オペレーションをこなしている時は、スタッフは「しんどい」、「きつい」と言っていました。
ただ、事業から離れてしまうと、どこか寂しそうでもあったんですよね。「次、あれくらい骨の折れる面白い仕事はあるのかな」と。
あの経験を通じて、経営陣だけでなく、現場のエンジニアも含めて、かなり鍛えられたと思います。

田代
厳しく重い経験ほど、後から効いてくる。

鈴木氏
そうだと思います。
実際、暗号資産をハッキングされた交換所システムを立て直した経験(かつてCAICA DIGITALは、過去の経営陣時代にハッキングを受けたZaifのシステムを再構築した実績がある)を持っているというのは、かなり特殊な経験です。
セキュリティや運用に関する知見も含めて、今の提案力につながっている部分があります。
当時は理解されにくかったですが、今となっては「そうした希少な経験を有している会社なんですね」と受け止められるようになってきました。

目指すのは「サービスを生み出す会社」

田代
ここからは今後について伺いたいです。
AIをはじめ、いろいろな変化が一気に加速しています。5年後、10年後のCAICA DIGITALをどう描いていますか。

鈴木氏
そうですね。
キーワードは、やはり「サービス」だと思っています。
これまでは、お客様のサービスづくりを支援する立場が中心でした。ただ、これからは、「もっと一緒につくっていく」、「一緒に事業化していく」という形が増えていくべきだと思っています。

田代
つまり「受託型」だけではなく、「共創型」へと。

鈴木氏
そうですね。
それは必ずしもITに限らないと思っています。
たとえば、今取り組んでいるNFTマンガ(デジタル所有権を付与した新しい漫画体験)のようなプロジェクトも、出版社とIT会社が組むことで新しい形が見えてくる。そこには、それぞれの業界にない発想や機能が持ち込めるかもしれない。
そうやって異業種と組んで新しいサービスを生み出していく。そこに面白さがあると思っています。

田代
一本ずつ確実に当てるというより、多く試して、その中から生まれるものを育てるイメージですね。

鈴木氏
まさにそうです。
新規ビジネスは、10本やって1本形になれば上出来ぐらいのものですから。

AIは脅威ではなく、明確にチャンス

田代
その中で、AIについてはどう見ていますか。IT企業にとっては、脅威だという見方もあります。

鈴木氏
私はチャンスだと思っています。
もちろん、労働集約型のモデルだけを見れば、「AIに仕事を奪われる」という見方も出てくる。
ただ、本質はそこじゃないんですよね。AIによって生産性が上がるなら、その分、人が新しいことに取り組めるようになる。そこに可能性があると思っています。

田代
単なる効率化ではなく、事業の広がりにつなげるべきだと。

鈴木氏
そうです。
今までと同じことを、AIを使って何とか延命しようとするのは違う。
AIは、優秀な部下でもあり、同僚でもあり、上司や経営者にもなり得る存在だと思っています。
それをどう自分たちのビジネスに取り込むか。そこを前向きに考えられる会社は、強いと思います。

「全社員にAI資格を取らせる」理由

田代
実際、社内でもかなり踏み込んでAI活用を進めていらっしゃるそうですね。

鈴木氏
ええ。今、全社員がAI関連の資格を取ろうと頑張っています。
エンジニアだけではなく、管理部門、経営陣も含めた全役職員です。

田代
そこまで徹底されるんですね。

鈴木氏
AIに詳しい人だけが使えばいい、という段階ではすでにないと思っています。
全員が最低限理解している状態をつくるには、資格という形が一番分かりやすい。
もちろんコストはかかりますが、資格取得は早ければ早いほどいいと考えています。